最後に、三浦哲郎の選評「感想」(本のオビ文につづく部分)を記してみる。

〝これが、一つの滞在記、たとえばヒッピー紀行のイギリス編とでもいうものであれば、それなりによく出来た好ましい一篇だといっていいだろう。けれども、小説作品としてみた場合、やはり平板で思いのほか感銘が薄いという不満が残る。

〝それは、作者があれもこれもと欲張りすぎて、書けそうな素材をあらかたこの一篇に投げ込んだせいではなかろうか。作者としては、多彩な人物を登場させ、多くのエピソードを積み重ねて、そこから一つの感動を引き出そうとしたのだろうが、そのためには、作者が採用した滞在記という形式はもともと平板にすぎるのである。せっかく盛り上げようとした感動が、作者を裏切ってひろく拡散してしまっている。
2011.05.01 / Top↑
 ゼロからの出発、というよりマイナスからの出発だった。難破船、と我は呼んでいる。それを修復して、航海ができるようになるまで、アメリカが内装を担当した。

 国の体制、社会のシクミを従来のものとはまったく別のものに変え、当初は「復興」を大前提にし、次には「成長」を目指し、国民はそのために全力を挙げた。

 戦没によって減ってしまった人口をフッコウさせるべく団塊の子どもたちを産み、1万3千6百円にすぎなかった月給を倍、また倍にセイチョウさせるべく、猛然と働きつづけた。そのパワーたるや、やはり世界の強豪を敵にまわして戦った日本という国の、とてつもないバカちからを感じさせるものだった。
2011.05.02 / Top↑
〝小説は、紀行文や滞在記とは別に、見聞したことの多くをいかに潔く捨てるかである。

〝この作品でも、たとえば主人公が働いているインド料理店に、あるいはヘレンに、あるいはナオコに焦点を絞って、深く掘り下げたら、もっと小粒でも奥行きのある作品が生まれたかもしれない。

〝打ち明けていえば、私自身も小説を書きはじめたばかりのころは知っていることをなにもかも書き込まなければ気が済まなくて、ある新人賞の選評で、佐藤春夫氏から、この作品の後半はなくもがな、前半だけで充分だということを早くこの作者に知って貰いたい、という評言を頂いたことがある。

〝これはそのままこの「海を越えた者たち」にはあてはまらないが、私はこの作者の資質に期待するところがあるから、この先達の教えをいまこの作者に引き継ぎたいと思う。″
2011.05.02 / Top↑
 バカちからといったが、むろんバカに意味がある。バカな戦争だった。愚か過ぎた。

 アメリカを知る数少ない識者が、あんな国にはゼッタイに勝てない、必ず負ける、と無謀なギャンブルを戒めた。にもかかわらず、神風などという幻の風を信じた愚か者の大声が通ってしまった。

 あまりの愚かさは、開戦後もつづき、ゼッタイに成功しない作戦を最後まで膨大な犠牲を出しながら遂行してはばからなかった。負けているのに勝っているかのごとく装い、ウソばかりついていた。それがわが国の為政者(当時は軍人)だったことは肝に銘じておいてよい。

 そして、広島、長崎に原爆が投下されたとき、銃後の女性たちは何と竹槍で米兵を突く練習をしていたのだ。
2011.05.03 / Top↑
 笑ってしまいたいところだが、それではすまされない。そんな愚かすぎる民族がこの地球上にいた、という事実について、戦後の日本人はどれだけ自覚し、猛省し、先々の国の行方をみすえただろうか。何もみていなかった。みえるはずもなかった、といったほうが正しい。

 ただ茫然自失した国民は、無条件降伏の下、意外にやさしいアメリカ人にチョコレートと引き換えに身体を差し出すことで生き永らえようとした娼婦と同じ次元の、アメリカの温情にすがりながら生存への欲求をどうにかするのがせいぜいだった。

 アメリカのいいなりは、ここからはじまる。いいなりになりながら、GHQの頭領、マッカーサー(元帥)に十二歳だといわれた国民は、フッコウとセイチョウを目指すほかなかったのである。

(話が意外と長くなりそうなので、このへんで有料部分の購読者は「実感!タイ暮らし」の第七話バンコク日誌①マンゴスチンが出た」をあわせてご覧ください。この無料部分はひきつづき、「わが文章修業」と共に数日に一度ペースで掲載をつづけます。)
2011.05.03 / Top↑
通番(566)

 待ちに待った果物が、やっと街に出た。 英語でマンゴスチンというが、そんな言葉を口にしても通じない。そこがタイのタイたるところ、面目躍如たるところだ。・・・
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2011.05.04 / Top↑
通番(567)

 マンクッのファンは多い。とくに女性に多い。ある人は、貴婦人にたとえているけれど、そんな感じがしないでもない。果物の女王、とも呼ばれるそうだけれど、・・・
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2011.05.05 / Top↑
通番(568)

 ぶ厚い茶褐色の果皮におおわれている。その外観をみるかぎり、中身は想像もつかない。果皮を剥げば何が現れるのか、大昔にこれをはじめて発見した人は、・・・
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2011.05.07 / Top↑
通番(569)

 人が食べるのは、もちろん球形の果肉部分だ。およそ五つか六つに縦割れしていて、それぞれの大きさが一定ではない。ほぼ等分されたものもあれば、大小さまざまな割れ方をしたものもあって、成長過程における自然の技をみる思いがする。・・・
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2011.05.08 / Top↑
通番(570)

 美味しいだけではなく、栄養価も高い。カテキンなど、アンチエージングに役立つポリフェノール類をはじめ、カリウム、カルシウム、リン、鉄、銅等のミネラル、ビタミンではB群、・・・
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2011.05.09 / Top↑
通番(571)

 ものの解説によると、ファイトニュートリエント(植物由来栄養素)としてのキサントンには・・・
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2011.05.10 / Top↑
 人間そのものに置き換えても、人のいいなりになるというのは大変なことだ。いいことばかりだといいが、間違った方向へと導かれる危険性は多分にある。最後は、死ねといわれる(あるいは結果として死す)恐れすらある。

 いいなりにならなかった、というより、なれなかったものが一つだけある。アメリカの一州に加えられても文句はいえない無条件降伏であり、それに相当するほどの難破船の修理、改変ぶりではあったが、一つだけ、アメリカが持ち込まなかったものがある。それは、宗教であった。
2011.05.11 / Top↑
通番(572)

 この研究がすすめば、大腸ガンや前立腺ガンほか、ほとんどすべてのガンに有効な治療法として活用される可能性が出てきた。正常な細胞を痛めつける副作用もほとんどないという。 ・・・
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2011.05.11 / Top↑
 これを幸い、としていいかどうか。戦前、戦中を通じて迫害されたキリスト教が復活したくらいのもので、アメリカは日本国民にそれを強要することがなかった。

 やろうと思えばできただろう。幼児からの教育の一環として、今後はキリスト教を日本国の宗教とする、その教えを教育に取り込む、教会をどんどん建てて、国民を教化していく、といったことがあっても不思議ではなかった。

 フィリピンを占領、支配したスペインはそれをやった。まずは宣教師による進出、教化から植民地政策ははじまった。ために、いまはアジアで唯一のキリスト教国となっている。
2011.05.12 / Top↑
 アメリカがなぜそれをやらなかったのか。日本人の精神をそこまで変革することはできないと考えたのか、はじめからそこまではやる気がなかったのか。その問題は、さて措く。

 それをやらなかったことで、確かに古来の神社仏閣が存続することになった。伝統文化のあれこれも継続することにはなったが、それらを支えていく世代の育成をどうするか、後継者をどのように育てていくかについては、ほとんど何の手を打つこともなく放置された。

 日本の神道、仏教の世界もまた敗戦によって活力をなくし、檀家制度等の従来の慣習を形骸化させ、冠婚葬祭の役目を維持するのが精一杯で、これからの日本人の精神性をいかに担保していくかの問題にいたっては、これまた何の知恵も策もなかった。

 韓国におけるキリスト教の興りは、宣教師たちが朝鮮戦争後の廃墟で人々に光明を与える努力をした結果だといわれるが、敗戦後のわが国でそのような役目を担えるとすれば、数の上からいっても仏教界であったはずだが、何の努力もしなかった(これまた茫然自失で何もできなかったといったほうがよいか)ことで、戦後の日本人は精神的にも路頭に迷うことになる。
2011.05.12 / Top↑
通番(573)

 さて、このマンクッの食べ方だが、いささかむずかしい。貴婦人を扱うのだから、一筋縄ではいかない。乱暴に扱おうものなら、実もフタもない。 ・・・
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2011.05.13 / Top↑
通番(574)

 どうすればよいのかというと、まるい球(マンクッ)の、ちょうど赤道のあたり、人でいえば腰まわりへ、親指と人指指、もしくは中指で、指圧をほどこしてやる。それもまんべんなく、キュッ、キュッと、少しずつ位置を変えながら、ひと周りする。・・・
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2011.05.14 / Top↑
通番(575)

 栄養価が高いので、それはサプリメントや石鹸、シャンプーなどにも使われる。サプリメントとしては、先の「キサントン」(果皮から抽出)・・・
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2011.05.15 / Top↑
 こうして選評をひもといてみると、確かに見方、読み方というのは人それぞれではあるけれども、どなたにも共通する点というのがみえてくる。

 入選に反対の黒井千次も、賛成する三浦哲郎も、ロンドン滞在記的なものから逃れられていない、という点では一致している。そして、小説とは、そういうものを越えたところで成立するものだという、小説たりうる条件を示されてもいて、いまならよく納得がいく。

 ただ、こんなものはロンドン滞在記、紀行文にすぎない、と切り捨てるか、いや、これには何かがある、みるべき資質を感じる、として、将来に期待して、拾い上げるか、の違いにすぎなかった。
2011.05.16 / Top↑
 頭を抱える井上委員長に、最終的な決断を下したのは水城編集長であったようだ。

 ササクラは「佳作」でいい。黒井さんの顔を立てましょう。あとは、ササクラの将来に期待して、うちで面倒をみますから。

 これに三浦さんも同意して、ほかの方々もうなずいて、「長い蜿々たる論議」(秋山駿選評内の言)に決着をつけたのであった。

 又吉氏の「受賞のことば」は載ったが、佳作のことば、はむろんなかった。経歴は両者ともに載って、又吉氏は昭和二十二年生れ、沖縄県出身の「公務員」、我は昭和二十三年生れ、兵庫県出身の「無職」と記された。団塊世代同士、ひとつ年上のオキナワのオトコに、ウチナーのオトコが花を譲ったカタチ。

 正賞は記念品、副賞の賞金は、受賞が五十万円、佳作が二十万円。すばる編集部やその他の事情を知る集英社の人たちは、ササクラがかわいそうだ、という囁きが交わされたというが、佳作のほうがいいんだよ、という水城編集長の言がそれを打ち消した。
2011.05.17 / Top↑